王子様はハチミツ色の嘘をつく
* * *
テーブルの上は、いつしかコーヒーとプチフールだけになっていた。
喋りすぎた口を潤すように華乃がカップを傾ける。
私は彼女がコーヒーを飲み終えるのを待って、静かに呟いた。
「あの、意地悪な男の子が、東郷社長だった……」
「そういうこと。どうしてあそこまで美都に突っかかっていったのかは謎だけど、美都にとって静也さんの印象があんまりいいものじゃないのは確かでしょ?」
「……うん」
少し考えてから、正直にうなずいた。
あの男の子に関しての記憶は、無意識に抹消されていたくらい最悪だったんだもの。
社長ってば私が泣いていた理由は“蜂に刺された”なんて言っていたけど、自分が泣かせたんじゃない。でも、どうしてあそこまでひどい意地悪を?
小学生男子特有のおふざけかもしれないけど、あの社長がそんなことするかな。なんとなく気になる……。
「そこで! 美都には美都の王子様に、もう一度会わせてあげようかなと思って」
社長のことで悩んでいると、唐突に華乃がそんなことを言い出す。
「え……?」
「だから、美都にレモンケーキをくれたっていう王子様のこと。今、どんなイケメンに成長してるのか気にならない?」
気に、ならない……と言ったらさすがに嘘になる、けど。
私には、過去の社長の意地悪な言動や、再会したときにどうして彼が嘘をついたのか。そっちの方が心に引っかかっている。
でも、それを華乃に言ったらがっかりさせてしまいそうで、なかなか口にできずにいると、テーブルの上にあった華乃のスマホが振動して、メールが届いたようだった。