王子様はハチミツ色の嘘をつく
「……あ。来たみたい! 会計して出よっか」
「え? もう出るの?」
それに、“来た”って何が?
もう少しゆっくりコーヒーを楽しみたかったな、と思いながらも華乃に逆らえず会計を済ませて、店の外に出る。
すると華乃はすぐに辺りを見回して、路肩に停車している車の前に立っている男性を見つけると手を振った。
……誰だろう。さっきの話の流れから考えると、もしかして……?
華乃の隣でもやもやしていると、近づいてきた男性が私たちの前でぴたりと足を止めた。
身長は、社長と同じくらいかな。清潔感のある黒い短髪に、爽やかで男らしい顔立ち。
中でも、キラキラ輝く瞳が印象的で……ってことは、やっぱり、このひと――。
「お迎えに上がりましたよ、お姫様」
くしゃっと目元を緩める、優しい笑顔を向けられて、思わずドキッとしてしまう。
……いやいや、“お姫様”っていうのは華乃に言ったんであって、私じゃないって。
なんて自分にツッコんでいると、当のお姫様は彼を見上げてこんなことを言う。
「無理を言ってごめんなさい。私、久々の六本木でもうちょっと遊んでくから、美都のことよろしくお願いします」
「え、ちょっと華乃、どういうこと?」
何を勝手に、私のことよろしくしてるの……!?
「あ、まずは紹介しなきゃだよね。こちら、美都の大好きだった、東郷創希(そうき)さん。静也さんのイトコだよ」
「はじめま……じゃなかった。二度目まして、だよね? 静也に苛められて泣いてた美都ちゃん」
……! やっぱり、この人が、本物の、初恋の王子様……。
パッと見の外見は違っても、社長と同じで瞳が綺麗なのは、血のつながりがあるからなのかもしれない。