王子様はハチミツ色の嘘をつく
「……大丈夫です」
正直にうなずくと、創希さんがちらっとこちらを見て微笑み、それから前に向き直って話し出した。
「俺さ、静也みたいに頭良くないから、一族の使命みたいになってる会社の経営的なこと学ぶの早々に諦めて、別の道進んだんだけど。……それってなんだと思う?」
「別の道、ですか」
創希さんに似合いそうな職業……。優しいから、幼稚園や保育園の先生とか。
外見の素敵さを生かして、モデルやタレントとか。
あとは……なんとなく、甘いものが似合う気がする。彼に関する記憶は、いつもレモンケーキと一緒だからかな。
「パティシエとか、どうでしょう」
「……すっげ。美都ちゃん、ドンピシャ」
「えっ! 本当に?」
「うん。……やべぇな。ゴメン、勝手に運命感じるんだけど」
照れくさそうに言われると、こっちまで照れてくる。
社長とイトコ同士とはいえ、彼らの纏う空気は全然違う。
隙がなくて、何を考えているのか読めないことが多い社長に比べて、創希さんは隙だらけと言うかなんというか……素直そうで、親しみが湧く。
「それで、今回静也がプロデュースするフレンチトースト専門店、俺がチーフやらせてもらうんだ」
「あ! 百周年記念式典の日に、同時オープンするアレですか?」
「そうそう。でも、もうオープンまであと一カ月と少しだっていうのに、今ちょっとアイツとは対立してるんだよね」
「対立?」
なんだか穏やかじゃない言葉が気になって聞き返すと、創希さんが苦笑しながら語る。