王子様はハチミツ色の嘘をつく


「美都ちゃんってさ、フレンチトーストどうやって作る?」


え? 急に質問?

戸惑いながらも、自分のやり方を思い出して、順番に話す。


「卵と牛乳とお砂糖を混ぜた卵液をつくって、そこに食パンを浸して、フライパンで……」

「やっぱりさ、食パンの方が馴染みがあるよね?」

「え? はい、まあ」


何と比べてだろう、と不思議に思っていると、創希さんが語る。


「静也は、絶対にフランスパンを使えっていうんだ。俺は、日本人に馴染みのある食パンを使った方が、人気が出ると思うんだけど」


フランスパンか食パンか、かぁ……。

どちらも美味しそうだし、社長も創希さんもそれぞれ考えがあるんだろうから、下手なことは言えないな。


「きちんと検討して、それでもフランスパンがいい具体的な理由を説明してくれるなら納得できるけど、静也の場合そうじゃないんだ。“経営者は僕なのだから、僕のやり方に従ってください”――の一点張りでさ」

「ああ……社長なら、言いそうですね」


妙に納得してしまうけれど、そこに理由がないとは思えない。

会議のときだって、一方的に彼の意見を押し付けているように見えて、周囲を黙らせるくらい説得力のある持論を展開していたし……。


「……で。美都ちゃんは、そんな、他人の話に聞く耳を持たない、かつ苛めっ子体質な静也のどこがいいの?」


赤信号で止まった瞬間、創希さんが急にこちらをじっと見つめる。

まさか、このタイミングでそんな話を振られるなんて……!

動揺してしまった私は、運転席の方を向けずにぼそぼそと話す。



< 109 / 212 >

この作品をシェア

pagetop