王子様はハチミツ色の嘘をつく


「誕生……パーティ……」


私が遠い記憶を必死で手繰り寄せると、脳裏に広がるのは、華乃の住んでいた豪華な一軒家の庭を使って開かれたホームパーティ。

青い芝生の上に並べられたテーブルにはご馳走やケーキが並び、華乃の両親が呼んだのであろうマジシャンのパフォーマンスやバンドの生演奏まであって、私は初めて見る光景に興奮してばかりいた。

おまけに華乃が、“一緒にお姫様の格好をしよう”とレースのついたワンピースを貸してくれて、華乃と手を繋いで、色んな大人たちに『可愛いね』と言われて、照れくさいような誇らしいような気持で、ドキドキが止まらなかった。

それから……そうだ。

私、あの日、すごく素敵な男の子に出会って……


「おうじ……さま」


こぼれるように口をついて出た言葉に、自分自身ではっとする。

おぼろげにしか顔は思い出せないけれど、きらきら光る瞳が印象的な、あの日の王子様……

まさか、それが……


「……まぁ、あの日は僕も蝶ネクタイを着けさせられて、子供なりに正装していたので、幼いきみにはそう見えたかもしれませんね」


そう言って、東郷社長は初めて私に微笑んで見せた。

輪郭をもたなかった王子様の記憶が、社長の笑顔とリンクして……

トクン、と、心の奥の方から、温かくて甘酸っぱい気持ちが湧き出すのを感じる。

だって……初恋の相手と、長い時を経て、こんな風に再会するなんて。

運命を感じるな――って言う方が、無理じゃない……?



< 11 / 212 >

この作品をシェア

pagetop