王子様はハチミツ色の嘘をつく


「どこがいい、と言われると、難しいです。最初は私、社長を“初恋の人”だって勘違いして、惹かれたというのもあったから。……でも、きっかけはどうあれ、彼のことをもっと理解したいと思いますし、その一挙一動にドキドキしてしまうのは確かで……」


社長は創希さんが言うように、苛めっ子で、私の質問には半分も答えてくれないような、難解な人ではあるけれど……たとえゆっくりでも、彼を読み解いていけたらいいと思う。

お父様の病気のことを話してくれた時のような、“素”の彼のことが、もっと知りたいから……。


「そっか……。じゃあさ」


信号が青に変わり、創希さんが再び車を走らせる。

その横顔を見ながら言葉の続きを待っていると、彼は無言で、片方の手を助手席に伸ばしてきて、太腿の上にあった私の手をぎゅっと握った。


「……創希さん?」


小さく身体を震わせて、私は声を上げた。


「俺にこうされるのは……ドキドキしない? 勘違いじゃなく、本当の初恋の相手に、密室で手を握られてるんだよ」


私は握られている手をどうしたらいいのかわからなくて、困ったように創希さんを見つめる。

ドキドキ……しないわけがない。

でも、創希さんのような素敵な人にいきなりこんなことされて、平然としていられる女性はいないよ。

だから、自分でもはかりかねているのだ。

社長に対して感じる、胸が締め付けられるような痛みを伴うドキドキと、今、創希さんに感じている胸の高鳴りが、同じなのか、違うのか……。



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