王子様はハチミツ色の嘘をつく


……私、なにしてるんだろう。

創希さんに押し切られた形とはいえ、デートの誘いに乗って本当によかったのかな。

彼にはドキドキさせられてばかりだけど、この状況を、心から楽しめない私がいる。

こんな風に、手を繋いで歩いている姿を見たら、社長はどう思う……?

モヤモヤとした気持ちを抱えながら、エレベーターで最上階まで来た。日曜日だからなのか、プラネタリウムは結構混雑しているようだ。

チケットを買ってくるという創希さんと別れて、私はひとり、人ごみから外れた場所でぼんやりしていた。


「……美都さん?」


そのとき、聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、キョロキョロと視線を動かすと、見覚えのある茶髪の男性がこちらに近づいてきていた。


「上倉?」


私の方も数歩足を進めて、意外な人物とばったり会ったことに、ふっと表情をほころばせる。

そこにいたのは私服姿の上倉で、彼はプラネタリウムのチケットを二枚手に持っていた。


「もしかして、デート?」


自然と浮かんだ思い付きをそのまま口にすると、気まずそうに目を逸らす上倉。


「……デート、っつーか」


彼が言い淀んだ瞬間、女の子が駆け寄ってきて、その腕をがしっと掴む。


「待たせてゴメンナサイ! 女子トイレ結構混んでて……」


甘えるような声で言ったその女の子も、私の知っている人物だった。

彼女は上倉の様子がおかしいことに気付き、側に立つ私の姿をとらえると、みるみるうちに敵意の滲んだ表情になった。



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