王子様はハチミツ色の嘘をつく
「芹沢さん……」
「こんにちは。……若名さん」
庶務課で後輩だった彼女だけど、上倉に想いを寄せているからか、彼に好かれている私のことが気に入らないみたいで、デスクを蜂蜜まみれにされたんだっけ。
でもこんな場所に二人でいるってことは、彼女の想いは成就したのかな……?
勝手にそんなことを予想する私に、若名さんが刺々しい声を放った。
「……東郷社長と一緒なんですか?」
そう聞かれて、はっとした。
私が彼らが二人でいるのを見て“デートかな”と思うように、私と創希さんもそう見える可能性があるわけで……。
でも、上倉や若名さんは、その相手が社長でないことにきっと疑問を持つだろう。
ううん、疑問くらいならまだいいのかもしれない。
だって、上倉や若名さんから見たら、私のしていることって、まるで――。
「お待たせ、美都ちゃん!」
このタイミングは、最悪、というのか、絶妙、というのか。
とにかく私たちの間に流れる気まずい空気にそぐわない、明るい声が少し離れた場所から掛けられた。
「創希さん……」
曖昧に笑って彼の方を振り向く私に、二人の視線が突き刺さる。
「じゃーん、カップルシート取れたよ」
得意げにチケットを見せてくる創希さんだけど、口ごもる私の様子から何かを感じ取ったらしい。
浮かべていた笑みを消すと、こちらを凝視する上倉と若名さん、二人の姿に気が付いた。