王子様はハチミツ色の嘘をつく


「芹沢さん……」

「こんにちは。……若名さん」


庶務課で後輩だった彼女だけど、上倉に想いを寄せているからか、彼に好かれている私のことが気に入らないみたいで、デスクを蜂蜜まみれにされたんだっけ。

でもこんな場所に二人でいるってことは、彼女の想いは成就したのかな……?

勝手にそんなことを予想する私に、若名さんが刺々しい声を放った。


「……東郷社長と一緒なんですか?」


そう聞かれて、はっとした。

私が彼らが二人でいるのを見て“デートかな”と思うように、私と創希さんもそう見える可能性があるわけで……。

でも、上倉や若名さんは、その相手が社長でないことにきっと疑問を持つだろう。

ううん、疑問くらいならまだいいのかもしれない。

だって、上倉や若名さんから見たら、私のしていることって、まるで――。


「お待たせ、美都ちゃん!」


このタイミングは、最悪、というのか、絶妙、というのか。

とにかく私たちの間に流れる気まずい空気にそぐわない、明るい声が少し離れた場所から掛けられた。


「創希さん……」


曖昧に笑って彼の方を振り向く私に、二人の視線が突き刺さる。


「じゃーん、カップルシート取れたよ」


得意げにチケットを見せてくる創希さんだけど、口ごもる私の様子から何かを感じ取ったらしい。

浮かべていた笑みを消すと、こちらを凝視する上倉と若名さん、二人の姿に気が付いた。



< 117 / 212 >

この作品をシェア

pagetop