王子様はハチミツ色の嘘をつく
「……知り合い?」
「は、はい。二人とも、会社の後輩です」
私の説明に納得した様子の創希さんは、二人に向かってにっこりと微笑む。
「初めまして。東郷創希です。皆さんの会社の社長、東郷静也のイトコで、パティシエやってます」
しかし、そんな丁寧な挨拶にも二人は訝しげな顔をするだけで、何の返事もしない。
かと思えば、創希さんを睨むように見つめる上倉が、不愛想にこんな質問を投げかけた。
「……美都さんとは、どーいう関係?」
意表を突かれたように、目を瞬かせる創希さん。
やっぱり……突っ込みたくなるのはそこだよね。
創希さんはなんて返すだろう?
ハラハラしながら成り行きを見守っていると、創希さんは上倉に対してこう宣言した。
「今はどういう関係でもないから、これから仲良くなろうと思ってるところです。……っていうかさ。もしかして、きみも美都ちゃんのこと――」
「……帰ろう、若名」
創希さんが言い終わる前に、ふいっと目を逸らして私たちに背を向け、スタスタ歩き出してしまう上倉。
帰ろうって……チケット、持ってたのに……?
ぎゅっと胸が痛くなって、私は上倉に言い訳をしたいような気持ちでいっぱいになった。
創希さんは何も間違った説明をしていないのに……どうしてか、誤解なんだよって、心の中で叫んでしまう。
若名さんはそんな彼を慌てて追いつつ、ときどきこちらを振り返っては私たちに敵対心の滲んだ瞳を向けていた。