王子様はハチミツ色の嘘をつく
二人の姿が見えなくなると、創希さんは気を取り直したように私の手を握って、微笑みかけてくる。
「本当は、“カレシです”とか言いたかったけど、俺苦手なんだ、嘘つくの。静也と違って」
静也と違って――、か。そういえば、こないだ華乃も言っていたな。
“静也さん、ときどき嘘つきだから”って。
社長をよく知る人たちはみんな、彼を嘘つきだと思っているみたい。
彼と知り合ってまだ日の浅い私も、身をもってそれを実感しているけれど……彼はなぜそんなにも、人を欺こうとするんだろう。
「社長のつく嘘って……何か理由があるんでしょうか」
創希さんに手を引かれて、プラネタリウムの扉をくぐる前に、ぽつりとこぼした私。
「……あいつは天邪鬼だからね。本音を言うのが苦手なんだと思うよ」
「本音を言うのが苦手……」
その意味を確かめるように同じことを口にする私に、創希さんは少し照れくさそうに口にする。
「そのおかげで、俺もこうして美都ちゃんとデートできてるわけだけど」
「え?」
“おかげ”という表現が引っ掛かり、思わず創希さんをじっと見つめる。
天邪鬼で、本音を言うのが苦手。そんな彼のおかげで、今日のデートが叶ったってこと?
じゃあ、本当の社長の思いは……。
創希さんはそれ以上言葉を紡ぐことなく、私の視線から逃れるように前に向き直ると、重たい扉を引く。
そして、薄暗い部屋の中へ、私を引っ張るように連れて行った。