王子様はハチミツ色の嘘をつく
私の出した答えに創希さんは苦笑して、「もう謝らないで」と優しく諭してくれた。
本当に……創希さんはいい人。優しくて気が利いて、素直で正直で。
なのに私は、天邪鬼な彼の方が気になるなんて……自分の気持ちなのに、自分でも不思議だな。
そんなことを考えながら、視線を窓の方に移す。
五月の夕暮れはまだまだ明るくて、こんな時間にデートを終わらせるのは本当にもったいないことなんだろう。
……相手が、心から好きな相手であれば。
でも、創希さんは、私にとってその人じゃない。だから、これでいいんだよね――。
「……あれ?」
それから数分が経った頃、見つめていた景色にふと違和感を感じて、私は小さく声を漏らす。
こっちは、私の家の方向ではない。この車……いったいどこに向かってるの?
不安げに創希さんの横顔を見つめるけれど、彼は平然とハンドルを握ったままこう告げる。
「そんな警戒しないで? 静也のところに送っていくだけだから」
「あ、そうだったんですね……。って、ええっ!?」
変な場所ではなくて一瞬ホッとしちゃったけど、どうしてそんなことに……!
「……だって、美都ちゃん今日一日中アイツのこと考えてたでしょ?」
拗ねたような口調で言われ、うっ、と言葉に詰まる。
でも……創希さんの言う通りだ。最初は、二人の間で揺れているような気がしていたけれど、創希さんと過ごすうちに、わかったんだ。
私の王子様は、たったひとり。東郷社長しかいないんだ――って。