王子様はハチミツ色の嘘をつく
重なる思い出、甘い夜
「はい、到着」
一度、深見さんに連れて来られたことのある高級マンションの前で、創希さんが車を停めた。
私がシートベルトを外していると、創希さんはいつの間にかスマホを耳に当てていて、誰かに電話をしているようだった。
その相手は、なんとなく、予想がつくけれど。
「あ、静也? 今って、部屋にいる?」
思っていた通りの名前が聞こえて、ドキッと心臓が飛び跳ねる。
でもそっか……突然こんな風に訪問したら、家にいるとは限らないもんね。
「じゃあ、下まで迎えに来てあげてよ。俺が連れ回したせいで、美都ちゃんいろいろ疲れてると思うんだ。それに……俺は、フラれたしね」
最後に「うん、よろしく」と言い終えると、創希さんはスマホをしまって、私に向き直る。
「よかったね。静也のヤツ今来るって」
「すみません……何から何まで、ご迷惑ばかりかけて」
「いいって。ちょっと切ないけど今日は楽しかったよ。そうだ、お土産あるんだ。持って行って?」
創希さんは、後部座席に身を乗り出して、そこに置いてあった紙袋を取ると私に差し出す。
「これ、今勤めてるパティスリーの焼菓子。美都ちゃん、甘いもの好きだよね?」
「わぁ、ありがとうございます! 甘いお菓子、大好きです!」
パッと笑顔になった私を見て、創希さんがクスクス笑う。
やだ……お菓子で喜ぶなんて、子供みたいだったかな。