王子様はハチミツ色の嘘をつく
「初恋の綺麗な思い出は、創希さんとのものだったけど……私、今はあのときの意地悪な男の子のこと、もっと知りたいんです」
彼の目を見てハッキリと告げると、社長の目が一瞬見開かれて、次の瞬間、エレベーターが止まった。
社長は何も言わずにエレベーターを降りていき、私もその後を追いながら、思う。
今、けっこう勇気の要る告白をしたと思うんだけど……どうして何も言ってくれないの?
さっき、創希さんに『美都は僕のもの』と宣言してくれたこと、嬉しかった。
だから、二人きりになればもっと、彼の考えていることを聞かせてくれるんじゃないかって期待していたんだけど……。
悶々としている間に、彼の部屋の前に到着した。
社長は鍵を開けて扉を引くと、私の背中にそっと触れて玄関の中に促した。
靴を脱いで、とぼとぼとリビングに向かうと、後ろから近付いてきた社長が、私の手から創希さんにもらったお菓子の紙袋を奪った。
そして彼はダイニングテーブルの上で、なぜか中身を取り出し無造作に箱を開け始める。
「……お腹、すいてるんですか?」
「違いますよ。……少し、確かめたいことがあるんです。とりあえずソファに座っていてください」
社長はそう言うと、箱の中に綺麗に並んだ焼き菓子の中から、マドレーヌを選んで私の元に持ってきた。
そして言われた通りソファに腰を下ろしていた私の隣に腰かけ、マドレーヌのフィルムをはがすと、私の口元に近付ける。