王子様はハチミツ色の嘘をつく
えーと……食べろって言う意味かな……?
小さく口を開けて、はむ、とひと口食べてみる。
ゆっくり咀嚼すると、バターのリッチな風味の中にブランデーのような香りが混じっていて、少し大人の味がする。
「……美味しいです。とっても」
その美味しさに思わず微笑を浮かべながら感想を伝えると、社長はなぜかほっとしたように息をついた。
そして残りのマドレーヌを近くのローテーブルに置くと、髪をかき上げながらこんなことを言った。
「やっぱり、きみが笑ったのは、お菓子の効果だったんですね。創希の手柄ではなくて」
「え……?」
「さっき……創希が挑発するように言っていたことは、事実です。僕はあの誕生パーティの日、嫉妬していたんですよ。僕の好きな女の子を、一瞬で笑顔に変えた創希に」
初めて聞く社長の胸の内に、わたしは目をしばたかせた。
彼は少し気まずそうにうつむきながら、話を続ける。
「僕はあの日、好きでもない女の子……つまり、蜂谷華乃との結婚を約束させられて、虫の居所が悪かった。でも、泣いたり喚いたりすれば父に叱られる。だから、ひとりで庭の隅で拗ねていたんです」
そういえば……意地悪なあの子は、パーティーの輪から外れていたんだっけ。
つまらなそうにしていたのは、華乃のことが理由だったんだ……。
「そんな時、目の前に蜂谷華乃ときみが現れました。……簡単に言うと、そこで僕は一目惚れしたんです、きみに」
床に向けられていた彼の視線が私を射抜いて、急に心臓が暴れ出す。
ひ、一目惚れだなんて……この私に? まさか。
あの時は華乃に可愛い服を借りていたから、馬子にも衣装的な……?