王子様はハチミツ色の嘘をつく
「私、昔からパッとしない顔立ちですよ……?」
ひと目ぼれされるような、目立つ部分もないし。
そんな風に言ってもらえてうれしいけれど、素直に信じることができない。
「……そんなことありません。だって、きみが創希を“王子様”だと思い込んだように、僕にはきみが“お姫様”に見えたんですよ?」
社長らしからぬ、優しげな声色で告げられて、私の顔は火がついたように熱くなる。
でも、ちょっと待って。あの日の社長は、私のこと『ブス』って言ってなかったっけ……!
もしかして、“お姫様”も“一目惚れ”も、また得意の嘘なんじゃ……!?
「じゃあ、どうして私に意地悪なことばっかりしてきたんですか? 華乃に教えてもらうまで忘れてましたけど、色々、傷ついたし……ほっぺたも、痛かったです」
自然と左頬に触れながら話すと、横から社長の手が伸びてきて、私の手の上に重なった。
ふわりと包み込むようなぬくもりに、ドキドキが高まる。
さっきまで明るかった外の景色は一気に夕暮れの表情に変わっていて、部屋の中までオレンジ色に染める。
そんな優しい色に包まれた中で、社長はスッと私から手を離すと切なげにこう語った。
「最初から突っかかっていったのは、もちろん相手が気になる女の子だからです。あの頃の僕は今の何倍もひねくれていましたから、素直な態度の取り方などわかりませんでした。それから……僕に意地悪なことを言われて、思い切り泣けるきみが、羨ましくて、少し妬ましかった。それで、意地悪がエスカレートしてしまったんだと思います」
そっか……彼の意地悪には、そんな理由があったんだ。
納得しながらも、抑圧された彼の子供時代に同情せずにはいられない。