王子様はハチミツ色の嘘をつく
「美都……」
社長は呟くように私の名を呼び、愛しそうに目を細めて私を見つめてくれる。
恥ずかしいけれど、目を逸らしたくはなかった。
しばらく視線を絡ませた後で、社長は私の頭を自分の胸に引き寄せる。
「ありがとう。これで……きちんと父に報告できそうです」
「お父様に……?」
「はい。自分が本当に結婚したい相手……つまりきみに、心から愛されること。……許嫁との結婚を蹴るつもりなら、その条件を満たさなくてはいけなかったんです」
そっか……。やっぱり、会社を背負って立つ立場の人だから、結婚にも色々と制約があるのは当然。
告白しておいて今さらだけど、私みたいな普通の庶民が相手で大丈夫なのかと不安になってしまう。
子供の頃は、友達づきあいも制限されていたって、前に話していたし。
「私……容姿も、家柄も、普通と言うかむしろそれ以下ですけど、お父様に認めてもらえるでしょうか」
自信なさげに呟くと、社長が私を安心させるよう、ゆっくり髪を梳いてくれる。
「そういうことは、あまり関係ありませんよ。なにしろ僕の母親も、東郷蜂蜜の一般社員だったんですから」
「えっ?」
思わず彼の胸にくっつけていた顔を上げて、目を丸くする私。
「その当時、やはり両親や周囲の反対はあったようですが……父は母を秘書に抜擢し、自分の片腕として献身的に働く母のことを、時間をかけて周囲に認めさせたそうです」
……すごい。さすが、社長のお父様。
少し強引なやり方でことを進めるのは、今の社長の姿と、少し重なるような気がする。