王子様はハチミツ色の嘘をつく
「でも、もう……嘘をつく必要はありませんよね?」
少しでも彼を元気づけたくてそう言った私に、社長は優しく微笑んでうなずいた。
彼の纏う雰囲気も和らいで、ホッと胸をなでおろす。
しかし、穏やかな空気が流れたのもつかの間。社長はなぜかおもむろに私をソファに押し倒し、私は急に反転した世界に目を白黒させた。
社長は呆然とする私に覆い被さりながら、静かに言葉をこぼす。
「嘘は、もう終わり……ということで、今の僕の、正直な気持ちを話してもいいですか?」
驚きと、それを上回るドキドキからうまく声が出せなくて、私はただコクコクと首を縦に振る。
すると社長は私の耳の横に顔を埋めて、甘くかすれた声を、吐息とともに吹き込んだ。
「美都。――きみを、抱きたい」
――心臓が、止まるかと思った。
こんな状況は、人生で初めての経験で、どう反応したらいいのかわからない。
ただ、彼の言葉を受け止めた耳から、何かウイルスみたいなものが全身に回っていく感覚がした。
その症状は、発熱、動悸、息切れ……瞳が勝手に潤んで、胸が苦しい。
「わ、たし……」
なんとかそれだけ喉の奥から押し出すと、社長が少し身を起こして、熱い眼差しで私を見つめた。そして……。
「……僕との約束を、全力で果たしてくれるのではなかったのですか?」
い、今その話を持ち出すなんて、やっぱりこの人意地悪だ……!
眉尻を下げ、これ以上ないくらいに困った顔をして見せると、彼は突然ふいと目を逸らす。