王子様はハチミツ色の嘘をつく
そういえば、電気を消してと頼むのを忘れてしまったけど……控え目な明かりの常夜灯だし、彼の顔をよく見たいから、このままでいいかな。
そんなことを考えていると、長い睫毛を伏せた彼の顔が、ゆっくり近づいてきた。
ちゅ、と軽く唇の重なるキスを一度だけ。
それからすぐに、口づけは深いものに変わっていった。
海で溺れたときに、投げ込まれた浮き輪に必死でつかまるように、彼の首にぎゅっと腕を回して、甘いキスに溺れる。
「……そういえば、きみは一度も僕を名前で呼んでくれませんね」
「ふぇ……?」
キスの合間にそんなことを言われても、呆けた声で聞き返すことしかできない。
そんな私に苦笑した社長は、長い指で私の唇をなぞりながら言う。
「静也――と。そう、言ってみて」
おねだりするような甘い声に、胸がきゅう、と鳴く。
「し、ずや……さん」
キスのせいで呼吸が荒いまま、勇気を出して口にしてみると、社長はパッと私から目を逸らした。
それから少し何かと葛藤していたようだけれど、再び私を見つめると、その瞳を妖艶に細めて独り言のように呟く。
「……やっぱり、泣かせたい。いや、鳴かせたい、か」