王子様はハチミツ色の嘘をつく
だからなのか、私たち課員のことは我が子のように可愛がってくれていて、今回のことも、行き遅れた娘にやっと貰い手ができたと思ったら、なんと相手が御曹司だった!的な喜びを感じているんだろう。
でも……
「違うんだよ……本当に、玉の輿とかじゃないの。上倉だけには、言うけど……」
ぼそっと呟くと、上倉の目がはじめて私をちゃんととらえた。
「こんな私でも、子供の頃一度だけ人を好きになったことがあってさ。……それが、偶然。本当に、夢みたいな話だけど……社長だったの。さっき、本人と話してそれに気が付いて……それで……」
話しているうちに、段々と恥ずかしくなってきた。
自分にとっては運命の恋でも、上倉みたいな第三者から見たら、きっとただの偶然だし。
だいいち、今まで恋愛関係の話なんて一切なかった先輩が、こんな風に色ボケしてる姿って、上倉にとっては気持ち悪い以外の何物でもないかもしれない。
「ご、ごめん。変な話して。でも、誤解されたままは、なんとなく嫌だったから……」
たとえば庶務課の他の後輩たち――朝、私の悪口を言っていた子を筆頭に、私をお局扱いする人たちには今さらどう思われたっていいけど、いつも私を慕ってくれる上倉には、本当のことを知っておいてほしかった。
「……初恋の人、ね。それはそれで大ダメージっすけど」
「え?」
聞き返すと、上倉はゆっくり首を横に振った。
「なんでもないでーす。つか、マジで送別会やんなきゃじゃないですか。……庶務課から、いなくなっちゃうんでしょ?」
「う、うん……」