王子様はハチミツ色の嘘をつく
『……もう泣かないで? ほら、美味しいお菓子をあげる』
創希の優しい機転に、泣き顔からパッと笑顔に変わった美都を見ていたら、胸がどきどきした。
泣き顔も可愛いけど、笑顔の方がその何倍もいい。でも、創希みたいにへらへら優しくするのなんて、僕には無理だ。
僕は幼い嫉妬心を持て余しながら、パーティーの最中ずっと親しそうにしている美都と創希のことを、遠くからずっと見つめていることしかできなかった。
それが、僕のほろ苦い初恋の話――。
その後、蜂谷華乃は彼女の父親の仕事の都合で海外に行くことになり、けれど『必ず帰って来るから、そしたら華乃と結婚してね』と、うんざりする約束を取り付けられた。
それに反発するように、僕は思春期を過ぎると色々な女の子と付き合い、軽い恋愛を繰り返した。
けれど本気になれる相手に出会うことはなく、大学を卒業すると、本格的に会社を継ぐ準備に入らなければならなかったため、恋愛のことまで考えている余裕はなかった。
各地の営業所から工場の生産ラインに至るまで、色々な場所で研修を重ね、数年。
ちょうど僕が三十歳を迎えた年に、予定していたよりも早くに本社に呼び戻された。
そして、そのとき社長であった父に、衝撃的な事実を告げられた。
『静也。実を言うと私はもう長くないと医者に言われている。具体的にいうと、あと三年だそうだ。だから……この社長室を、お前に譲り渡す』