王子様はハチミツ色の嘘をつく


そう思った時、自然と頭の中に浮かんだのが、初恋の相手――美都だった。

彼女が本社の庶務課にいることは、偶然何かの書類でその名を見かけて知っていた。

しかし、それまで仕事ばかりに集中していた僕は、成長した美都をまだ見たことがなかった。

――会いたい。

遠い昔に一度会っただけなのに、今まで交際してきたどの女性よりも、彼女のほうが印象深かった。

少し弱気になっている今だからこそ、自然と心が彼女に向かうのを感じて、僕は庶務課へ出向く何か適当な用事をつくり、美都の姿を確認しに行った。

庶務課で僕の対応をしたのは課長だったが、オフィスには運よく彼女の姿があった。

美都は幼い頃の面影を残しつつ、昔よりずっと綺麗になっていた。


……彼女が、欲しい。どんな彼女の表情も、僕が独占したい。

少年の頃美都に対して抱いた、少し残酷で意地悪な気持ちが蘇っていくのがわかった。

でも、泣かせるだけで女性の心が手に入るわけもないと、大人になった僕は知っていた。

それで、創希のふりをすることを思い付いたのだった。



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