王子様はハチミツ色の嘘をつく
そんな不安を煽るかのように、創希はわざわざ僕に“美都とデートしてもいいか”なんて、許可を求めてきた。
僕の捻くれた性格をよく知る創希だから、おそらくわざとだろう。
本心は、そんなのダメに決まってる。いっそ美都を拘束して金属製の鳥籠にでも入れておこうか。
……という極めて危うい思想だったが、その気持ちとは裏腹に、僕の口から出たのは『どうぞご自由に』だなんて、強がりにもほどがある発言だった。
女性が好きな甘いスイーツを作ることを生業としていて、甘い台詞を吐くのも得意な創希。
そんな彼のことだから、きっと僕とは違う、ストレートなやり方で、美都の心に入りこもうとするのだろう。
そう思ったら、気が気ではなかった。
休日の深見を呼び出して、二人を尾行させようかなどと考えてしまうくらいに。
やきもきしながら過ごした一日は、仕事をしようと自室でパソコンに向かってもどこか上の空で、気づけば美都のことばかり頭に思い描いていて……。
やっぱり、鳥籠に閉じ込めておくんだった。
そんなことを後悔し始めた頃、窓の外は日が傾いていて、もう夕方なのかと驚くのと同時に、一本の電話が入った。
『あ、静也? 今って、部屋にいる?』
――創希。
どくんと全身が脈打つような感覚がして、けれどそれに続いた言葉は、少なからず僕を安堵させた。
『……俺は、フラれたしね』
美都は、創希を選ばなかったのか……。
肩の力がふっと抜けて、心の奥底から、美都への愛しさがこみ上げるのを感じた。