王子様はハチミツ色の嘘をつく


「痛っ……!」


鈍い痛みを感じて声を上げたときにはもう、上倉は私から距離を取っていて、私の胸元を眺めて薄く笑っていた。

まさか、跡をつけたの……!?

すぐに確認したかったけれど、どんなに下を向いても、鎖骨までは見えない。

瞳を潤ませて上倉を睨むと、ふいと目を背けた彼が言う。


「……キライんなった? 俺のこと」


もしかして、わざとなの……? 私の嫌がることをして、嫌われようって。

どうして、そこまで……。

私は唇を噛んで、横を向いたままの上倉に言い放つ。


「キライ……って、言ったとして、上倉は満足なの? また、傷つくだけじゃなくて? 私は、庶務課にいたときから、上倉のこと……人として好きだし、可愛い後輩だと思ってる。だから、ショックだよ……こんな風になっちゃったこと」


私が上倉を男性として好きになれたら、こんなことにはならなかったんだろう。

でも、自分の気持ちを偽ることはできない。

誰かを傷つけてしまうことになっても、たった一人を選びたい。


「……やっぱ、美都さんは美都さんだ」


しばらくすると、上倉が苦笑を浮かべながらそんな言葉をこぼした。


「無理に諦めるの、やめよ」

「え……?」

「時間が経って、気持ち薄れるのもう少し待ってみるよ。……でも、それまでは、女々しく想い続けてていいっすか?」



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