王子様はハチミツ色の嘘をつく
不安に寄り添って
「……失礼しまーす」
昼休憩の後、緊張しながら社長室に足を踏み入れる私。
結局、秘書課皆のメイク道具を駆使しても、キスマークをちゃんと消すことはできなかった。
もちろん、誰とどんな状況でそんな跡をつけられてしまったのか、取り調べもみっちり受けたのでへとへとだ。
「美都、ちょっと来てください。確認してもらいたい書類が」
「は、はいっ!」
デスクで事務作業をしていた静也さんに呼ばれて、我に返る。
仕事中に気付かれることはないだろうけど、どうにも胸元が落ち着かない。
そんな思いから、彼のデスクのそばで立ったまま書類を確認している途中、私は無意識にそこに触れてしまっていたらしい。
しばらくして静也さんの視線を感じた私がパッと胸元から手をどけても、時すでに遅し。
その動作もかなりわざとらしかったし、手をどけたら現物が見えちゃうからどっちにしろピンチで。
おもむろに席を立った静也さんは、鋭く目を細めると、キスマークがあると思われる部分を指先でスッと撫でる。
「……これは、なんですか?」
淡々と問いかけてくる静也さん。怒っているようには見えないけれど、彼の場合その冷静さが怖い……。
当然、蚊に刺されたなんて見え透いた嘘をつける空気でもないし、どうしよう。
「これは、その……」