王子様はハチミツ色の嘘をつく


二人で狭いワンルームに入ると、とりあえず静也さんにはベッドに座ってもらって、私は自分の部屋なのに落ち着きなく立ったままで話す。


「食事は、されましたか……? 汗を流したければ、狭いですけど、シャワーも使ってください」


本当は、すぐにでも核心に触れたいのに、口から出るのは関係のないことばかり。

なにをやっているんだと心の中で自分を叱咤していると、静也さんが顔を上げて、私を手招きした。

そして自分の隣のスペースをポンポンと叩いて、そこに座るよう促す。


「……失礼します」


かしこまりながら、ギシッと音を立ててベッドに腰を下ろす。すると次の瞬間、肩に静也さんの頭がコテンと寄りかかってきた。

ドキ、と胸を高鳴って、肩の温もりに意識が集中する。

もしかしたら、甘えてる……の、かな。

私はどう反応しようか迷ってから、彼のサラサラの髪に触れて、優しく撫でてみた。

少しでも、彼の気持ちが安らげばいいな……そう、願いながら。


「父は……とりあえず、持ち直しました。今日のところは」


やがて、静也さんが微かな声で言葉を紡いだ。

よかった……。

でも、“今日のところは”という言い方から察するに、予断を許さない状況であることには変わりないんだろう。


「お父様、どんなご様子でした……?」

「容体が落ち着いてからは、普段と同じくらいに話せるようになりました。“未だに俺を超えられていないくせに、こんなところで油を売ってる暇があるのか”と、叱られたりもして」

「そんな……“油を売ってる”だなんて」


静也さんの、お父様を心配する気持ちが伝わっていないのかな……。

そう思うと、自分のことのようにしゅんとしてしまう。


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