王子様はハチミツ色の嘘をつく
「昔から、なんでもそういう言い方をする人なんですよ。たとえ家族に対してでも、弱みを見せることが嫌いなんです」
呆れたように語った静也さんだけれど、私は似たような性格の人をもう一人思いついて、思わず口元を綻ばせる。
「親子で、似た者同士なんですね」
そう言った瞬間、肩に乗っていた頭がふっと離れていき、静也さんが心外そうに私を見た。
「僕は別に……」
「だって、専務たちの前では一切弱気な姿勢を見せないじゃないですか。でも……だから、うれしいんです。こんな風に、私を訪ねてきてくれて、寄りかかってくれることが」
ふっと笑顔を見せると、静也さんは照れたようにパッと目を逸らした。
もしかしたら、ココへ来たのは、無意識だったのかな……。だったら、なおさら嬉しいな。
「……違いますよ」
「え?」
惚気たような気持に浸ってふわふわしていると、静也さんにぴしゃりと否定された。
首を傾げる私に、静也さんは少し不機嫌そうな口調で話した。
「社長室できみに追及し損ねたことがあるのを思い出したから、僕はここへ来たんです。……全く、僕の見ていないところで、どこの野良犬に噛みつかれたんですか?」
野良犬……噛みつかれる……あっ!
途端に冷や汗が背中を伝い始め、手のひらで咄嗟に胸元のキスマークを隠す。
上目づかいで静也さんの様子を窺うと、彼は長い睫毛を伏せて、苦しげな表情を浮かべていた。