王子様はハチミツ色の嘘をつく


「……確かに。あの静也が“親孝行したい”だなんて、地球が爆発するんじゃないかと思うくらい意外だから、おじさんたちも気持ちを汲んでくれる、か」


静也さんのことしか知らない私と違って、親族である創希さんにそう言ってもらえると、心強いな。

ご両親の到着はいつになるだろう。サプライズは、パーティーの中盤で行う手筈になっているから、まだまだかな……。

何気なく腕時計を見ると、思ったよりも時間が進んでいて、私は慌てて創希さんに告げる。


「私、そろそろ社長を呼びます」

「あ、ちょっと待って、唇に――」


創希さんの手が口元に伸びてきて、彼の親指がぐいっと私の唇を拭った。


「はちみつ、ついてた」


そう言うなり、汚れた親指をぺろりと舌で舐めとる。

な、なんでそういう恥ずかしいことをサラッとできるのこの人は……!


「……ど、どうも」


彼と目を合わせないようにしてお礼を言うと、創希さんクスクスと意地悪く笑う。


「ああゴメン、静也にキスで取ってもらえばよかったね」

「べ、別にそんなこと思ってないです……!」

「赤くなっちゃってかーわいい。静也が苛めたくなるのもわかるな」


完全にからかわれている……。
もしかしたら、天邪鬼な静也さんより、ナチュラルに意地悪してくる創希さんのほうが腹黒いのでは?

私はそんなことを考えながら、逃げるように会場をあとにした。


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