王子様はハチミツ色の嘘をつく
「若菜さん、お願い。鍵を開けて」
泣きそうになりながら切実に訴えるも、扉越しに聞こえたのは不機嫌そうな舌打ち。
「……パーティーが終わるまではそこにいてください。それか、運よくホテルの人が開けてくれるのを祈るしかないですね。じゃあ、私は会場に行くので」
「待って!」
必死の懇願もむなしく、扉の前から若菜さんの足音は遠ざかっていく。私は体の力が抜け、ストンとその場に座りこんでしまう。
そうだ、スマホ……!
咄嗟に思いついてポケットから取り出してみると、相変わらず電池マークは赤い表示で、今にも充電が切れてしまいそうだった。
お願い、持ちこたえて……!
祈るような気持ちで静也さんの番号を出し、すぐに電話を掛ける。
けれど、数コールなった後でとうとう充電は尽きてしまい、私は外との連絡手段を失ってしまった。
どうしよう……誰か、助けて。
じわっと浮かんでくる涙を隠すように、両手で顔を覆い、私は狭い部屋で一人、うずくまっていた。