王子様はハチミツ色の嘘をつく
「どうかしましたか?」
気分でも悪いのかと顔をのぞき込もうとすると、彼女の顔を隠している髪の隙間から、憎々しげな声が聞こえた。
「なんで、みんな、あんな女のために……」
あんな女……って、美都のことか?
まるで美都を恨んでいるような発言に僕は男と顔を見合わせ、冷静に問いかける。
「きみは、何か知っているのですか?」
「若菜、お前まさか美都さんにまた何か……」
口をはさんだ上倉は、かなり焦ったような表情だ。
「“また”――とはどういうことです?」
「こいつ……庶務で美都さんに嫌がらせしたことあるから」
なるほど、上倉だけでなくこの女性も庶務課時代の同僚というわけか。
二人からかわるがわる詰問された若菜という女性はぎゅっと拳を握ると、我慢の限界が来たように顔をあげて、なみなみと目に涙を溜めながら話した。
「最初は、尊敬してたの……芹沢さん。マジメで、嫌な仕事押し付けられても文句言わずにやる姿とか、見習わなきゃって、思ったり」
彼女は肩を震わせて、言葉を探しながら続ける。
「でも……私が上倉さんを好きになって、すぐに上倉さんは芹沢さんのことを……っていうのがわかって。そしたら、私、心の中、嫉妬ばっかりで」