王子様はハチミツ色の嘘をつく
はちみつ王子の涙
閉じ込められた真っ暗闇の中、私はどうしたら脱出できるのかずっと考えていた。
この場所は人通りが少ないらしく、何度大声を上げても気付いてくれる人はいない。
昔の携帯みたいに摩擦でちょっと充電が復活しないかなーと、スマホを服にこすりつけてみたけど、効果なし。
もう、ドアを蹴破るしか……でも私の力で開くわけないか……。
はあ、と何度目かわからないため息をついて肩を落とすと、唐突に、カチッと鍵が回る音がした。
だれか助けに来てくれたの……? もしかして静也さん?
安堵とドキドキで胸がいっぱいになる中、扉がゆっくり開いて、そこから入り込む光で暗闇になれた目がくらむ。
こんな風に助けに来てくれるなんて、本当に王子様みたいで、惚れ直してしまいそう――。
「大丈夫ですか、芹沢さん」
王子様……じゃない。今ではけっこう聞きなれたこの低音ボイスは。
「深見さん? どうして、ここが……」
呆気に取られてぽかんとする私に、深見さんは腕時計を見て短く告げる。
「説明は後です。早く会場に入らないと、社長の挨拶に間に合いません」
「は、はいっ!」
慌ててコクコクうなずくと、私たちは廊下を急ぐ。
そして会場の前まで来た瞬間、扉に手をかけた深見さんが、いつもの怖い顔をふっと緩ませてこんなことを言った。
「……芹沢さんの居場所をつきとめたのは社長です。あなた方は、やっぱり運命で結ばれているんだと思います」