王子様はハチミツ色の嘘をつく
「……心配してくれてありがとう。でも、なんとかやってみるよ」
社長秘書だなんて初めての仕事に関しては、不安しかない。
でも、それ以上に、初恋の人と運命的に再会できたことへのときめきが勝っている。
たとえ社内で東郷社長に関する悪い噂が流れていても、私の記憶の中にいる彼は優しかった。
だから、もう一度、あの時の彼に逢いたい……
「……むかつく」
「え?」
急に、横でぼそりと呟かれた言葉に反応して上倉を見ると、彼が悔しそうに言う。
「今の美都さん、俺が知ってる中で一番キレイ。……その顔は、社長がさせてるんだって思うと、超むかつく」
……その言い方って、やっぱり。そういうことだよね……?
さっきも、ガキ臭い嫉妬がどうのって言ってたし……
「上倉……あのさ。さっきオフィスで言いかけてたことって……」
不貞腐れてちょっと先を歩いていた上倉の背中がぴたりと止まって、私の方を振り返る。
それから少し寂しそうに微笑した彼は、ふわりと揺れる茶色の髪をかき上げると、凛とした声で言う。
「もうわかってると思うけど……俺は、美都さんが好き」
……男性に告白されるのは、人生で二度目。というか、その二度とも、今日の出来事だ。
二十八年も寂しい思いをしていた私に、神様が極端なモテ期をくれたのだろうか。
でも……嬉しいというよりは、困る。
好きだけど、そういう“好き”ではない後輩の気持ちになんと答えたらいいのか、全然わからないよ。