王子様はハチミツ色の嘘をつく
「上倉……私……」
何か言わなきゃ、と口を開きかけたものの、結局ハッキリしたことが言えず口ごもる私に、上倉がふっと苦笑を洩らした。
「……すいません。美都さん困らせたいわけじゃなかったんだ。失恋120%確定でも、ただ言っておきたかったっつーだけで……自己満っすね」
「そんなこと……!」
「――はい! もうおセンチな時間はおしまい! 何か食いいこ? 俺腹減ったー」
わざとらしく情けない声を出した上倉だけど、そんな彼に救われた。
どうやら、恋愛偏差値は年下の上倉の方が上みたいだ。
後輩相手にこんなに慌てるばかりの私が、社長とうまくやっていけるのかな……
*
それから私たちが行ったのは、しゃぶしゃぶ食べ放題ができるお店。
私が最初『焼肉屋さんは?』と提案したら、上倉に『美都さんの歳じゃ、もう焼肉きついんじゃない?』という失礼すぎる指摘を受けた。
内心わなわな震えながらも完全にそれは図星だったから、結局同じ肉でもさっぱりと食べられるしゃぶしゃぶに落ち着いたというワケだ。
「飲み放題はつけなくていいの?」
「俺はいらない。酔ったら何するかわかんねーから。美都さんは?」
テーブルを挟んで向かい合った上倉は、しれっとそう言って私にメニューを手渡してきた。
彼の発言にドキッとしつつも、あえて聞き返すのは墓穴ほりそうだよね……と平静を装う。
「……少し、飲んでもいい?」
「別に少しじゃなくてもいいですよ。美都さんの送別会なんだし」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
上倉を意識してちょっと気まずい今の空気は、少しの酔いがあればごまかせる気がする。
……なんて、ちょっとずるいかな。
結局私だけ飲み放題をつけることにして、二人だけの送別会がはじまった。