王子様はハチミツ色の嘘をつく
上倉はやっぱり若い男子なだけあって、肉を平らげるペースが尋常じゃなく、私はお肉をしゃぶしゃぶして彼の取り皿に入れ、ときどきアクをすくうという損な役回りである。
そして、飲み放題料金の元を取ろうと、お酒のペースだけは早い。
「――え。付き合ってたの!? 若名さんと」
ほろ酔いの私はすっかり上倉を意識せずに話せるようになっていて、昆布だしのいい香りがする湯気の向こうでサラッと爆弾発言をした彼に、驚きの声を上げた。
「いや、まぁ……たったの一週間でしたけどね」
「……なんでそんなに短かったの?」
「ほら、よくある“お試し期間”的なやつですよ。結局、一週間付き合っても何も変わらなかったってわけです」
「なるほど……」
そういうのって、ドラマとかではよくある展開だけど、実際にあるんだなぁ。
ていうか、今日の若名さんを見る限り、彼女はその後も上倉を想いつづけてた――ってことだよね?
そう思うと、蜂蜜まみれの件も多少は許せるような気がしてきた。
だって、上倉の想い人が、こんな冴えないお局じゃあね……そりゃ認めたくないよ。
「……美都さんとなら、そんなん必要ねーのにな」
「へ……?」
女子力の欠片もない(でもすごくおいしい)焼酎ソーダ割り梅干し入りをジョッキでごくごくと飲んでいた私は、言葉の意味が分からず首を傾げる。
そうすると、ちょっと頭がいつもより重いような気がして、飲みすぎたかなぁとふわふわした思考で思う。
「ほら、そういうとこですよ。年上のくせに、超隙だらけでさ。……男心、すっげぇくすぐられる」
頬杖をついた上倉に見つめられながら、真剣な声で言われると、忘れてたはずの恥ずかしさが舞い戻ってきて、急に顔中が熱くなった。