王子様はハチミツ色の嘘をつく
目に飛び込んできた名前を、アルコールに侵された私の脳が必死に解析する。
【着信 東郷静也】
……とーごー……しずや。東郷……って。社長……?
なんで、社長が私に電話なんて……あ、そっか。
私、明日から社長秘書だし、これから社長夫人になる身――――。
「か……っ! 上倉! 貸して、電話っ」
一気に酔いの醒めた私は、上倉から奪うようにしてスマホを手にすると、すぐに電話に出る。
「お、お疲れ様です……っ! 芹沢です!」
『東郷です。お疲れ様、夜分遅くにすみません。……今、家ですか?』
うう……電話越しに聞いてもなんて甘い声なの。
なんてことない会話なのに、勝手に胸がときめいてしまう。
「いえ、今、同僚と食事をしてきた帰りで……」
『そうでしたか。では、そこまで迎えに行きます。少し話がしたいので』
「え……これから、ですか?」
さっき時計を見たとき、もう午後十時をまわっていた。そんな遅い時間に話ってなんだろう?
さっきまでぐでんぐでんに酔っていたから、絶対社長に見せられる顔してないし……
『……何か、不都合でも?』
「不都合っていうか……あの、私、お酒を飲んでしまっているんです……」
だから、まじめな話なら明日にでもお願いしたいんだけどな……
『構いませんよ。話があると言うよりは、きみの顔を見たいだけなので』
耳元で鼓膜を揺らした甘い言葉に、ドキン、と心臓が大きく波打った。
社長が、私の顔を見るために、迎えに来る……
メイクも崩れてるだろうし、心の準備だってすぐにはできそうにないけど、そんな風に言われたら断れないよ……