王子様はハチミツ色の嘘をつく
「わ、かりまし、た……えと、今いるのは……」
キョロキョロ辺りを見回して、一番近くにあった地下鉄の駅名を社長に伝える。
『わかりました。十分もあれば行けると思いますので』
「はい……わかりました」
ドキドキしながら電話を終え、社長がこれから迎えに来るのだということを上倉に告げると、彼はふう、と大きなため息を吐き出した。
「……あーあ。デートはもう終わりってことですか」
「だから、デートってわけじゃ……」
「わかってます。……全く、電話が社長からってわかった途端、急に乙女になるんだもんなー……」
お、乙女……? 私、そんな風に見えてたの?
思わず両手で頬を挟んでいると、上倉が気持ちを切り替えるように言う。
「じゃあ、俺はここで。美都さん、社長秘書がいやになったらすぐ帰ってきていいから」
「うん……ありがとう。そんなにすぐ新しい仕事を投げ出す気はないけどね」
「はは、そーだよね。俺もそんな美都さんいやだわ」
からからと笑った上倉だけど、その笑顔は今日一番悲しそうな表情に見えた。
何か言ってあげたいけど……でも、今の私じゃきっと、何を言っても無駄だよね……。
「今日は本当にありがとう。じゃあ、おやすみ」
「いーえ。こちらこそ、今までお世話になりました。……おやすみなさい」
なんだか他人行儀にお互い頭を下げ、私が頭を上げると上倉はもうこちらに背中を向けていた。
好きだって言ってくれたのに……ゴメンね。
こんなこと私が願うのはお門違いだろうけど、上倉に可愛い彼女ができますように……。
次第に遠くなる後輩の背中を見送りがら、私はそんなことを思っていた。