王子様はハチミツ色の嘘をつく

豹変王子



上倉と別れてから、待つこと十分。

歩道の端に立ってスマホを眺めていた私の前に、時間ピッタリに黒塗りの高級車が到着した。

うわぁ、いかにも重役が乗ってそうな車だ……。

街灯の明かりや通り過ぎる車のライトを受けて光るぴかぴかの外観を思わず眺めまわしていると、運転席からひとりのスーツ姿の大男が降りてきて、私の前に立つ。

「芹沢さんですね。今から社長のところにお連れします」


身長180センチはゆうに超えていると思われる体格から繰り出される声は、その声で“麒麟です”って言ってみてほしいなと思うくらいの低音。

愛想はあまりないしまぶたが一重だからか一見強面だけど、社長に引けを取らないイケメンである。

……この人。どこかで見たことあるけど、誰だっけ?


「あの、あなたは……?」

「申し遅れました。私は秘書室の室長を務めております、深見圭吾(ふかみけいご)と申します」

「深見さん……あっ!」


思い出した……この人、私がトパーズを壊して半泣きで秘書室に駆け込んだ時、その低音ボイスで“落ち着いてください。社長には私から報告しておきますので”と諭してくれた人だ……!



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