王子様はハチミツ色の嘘をつく
それから十数分車に揺られて到着したのはマンションの来客用駐車場。
車を降り、深見さんに先導されてエントランスにたどり着くと、彼は手慣れた様子でインターホンに社長の部屋番号と思われる数字のボタンを押していく。
そしてチャイムを鳴らすと、すぐに社長の声で応答があった。
『深見……時間通りですね。今開けますから、この先は彼女一人に来させてください』
「わかりました」
深見さんが短く返事をすると、ホテルのロビーを思わせるエントランスホールに続く自動ドアが音もなく開いた。
彼女ひとり……。つまり、深見さんとはここでお別れってこと?
「社長の部屋は十四階です。部屋番号は1425」
「えっと、あの……」
「あなた一人で行くようにとの指示です。早くしないとドアが閉まります」
なんとなく、深見さんも一緒に来てほしかったのに……。
そう思いつつも、ドアが閉まってしまうような気配がして、私は思わずその向こうに駆け込んだ。
その直後に自動ドアが閉まって、深見さんと私の間にガラスの隔たりができてしまった。
心細さを滲ませた目で彼を見ると、彼はポケットからスマホを取り出して何か文字を打ちこんでいて、しばらくすると私に向けて画面を見せてきた。
【あなたはもう社長から逃げられません。観念して早く上の階へ】
……な、なにその不吉な文章。余計に緊張してくるんですけど。
明らかに怯える私に構わず、深見さんはスマホをしまうとさっそうとエントランスから出て行ってしまった。
「うう。行くしかない……か」
ホールを照らす照明、そこに置かれた椅子や観葉植物はどれをとっても高級感にあふれていて、気後れしてしまう。
キョロキョロと周囲を窺っているうちに見つけたエレベーターに乗り込むと、私は十四階へ向かった。