王子様はハチミツ色の嘘をつく


「1425……ここだ」


辿りついた社長の部屋の前で、私は今さらのように手櫛で髪をととのえる。

酔いはだいぶ覚めたはずだから、顔赤かったりしないよね……?

いくら心を落ち着けようとしてもとうてい無理で、鼓動がどくどく脈打つのを感じながら、ドアの横のインターホンに人差し指を伸ばした。

チャイムの軽やかな音のあと、インターホン越しに声がした。


『芹沢さん……待っていてください。今、ロックを外しますから』


わぁぁ……とうとう、社長の住処にお邪魔してしまうんだ……。

妙な感動と緊張で汗ばむ手を握ってドアの前に立ち尽くしていると、ガチャリと音を立ててそこが開いた。

シャツにスラックス姿の社長が、自宅だというのにキラキラオーラをまとって顔を出す。


「こ、こここんばんは! お疲れ様です……!」


反射的に頭を下げると、優しげな声が降ってくる。


「急に呼び出したりしてすみませんでした。さ、早く中にどうぞ」

「は、はいっ」


パッと上半身を起こして、彼が開けてくれているドアから玄関に足を踏み入れる。

私がまごまごと靴を脱いでいるあいだに廊下に上がった社長がスタスタと歩いて行ってしまうので、慌ててその背中についていくと、リビングに案内された。

二十畳以上はあろうかという部屋に圧倒されて、思わず息を呑む。


「わ……広い……って、あれ? あそこにあるのって……」





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