王子様はハチミツ色の嘘をつく


「これを見て、今日のスケジュールを頭に入れてください。そして予定をこなすごとに、次はどこで誰と会うのか、会議は何時からか、そういう情報を僕に伝えてください。もちろん自分自身でも暗記していますが、忙殺されていると忘れてしまうこともあるので」

「は、はい……っ!」


受け取った手帳はずっしりと重たく、書かれたスケジュールもびっしりだ。

今日は、十二時に加地製菓社長と企業コラボの打ち合わせを兼ねて会食。お店は麻布の『華寿司』。

そして午後は、養蜂園の見学。こっちは埼玉か……日帰り出張ってところかな?


「本来きみの仕事は僕の不在時にも社内にいて社長代理として適切な対応をすることですが、今は色々な場で顔を売っておくことも大事でしょう。なので、どちらの予定にも同行してください。その間の対応は深見に任せますので」

「……わ、わかりました!」


緊張で自然と背筋がぴんと伸び、ぎこちなく頷いた私。

やっぱり、社長秘書ってすごく大変な仕事みたい……。庶務課で細々とした雑用しかしてこなかった私に務まるんだろうか。


「ちなみに、加地製菓の社長とは幼なじみですので、緊張しなくていいですよ」

「幼なじみ……? じゃあ、社長と同じようにお若いんですね」

「ええ。しかしあまり同じ括りにはされたくないものです」


鼻から息を漏らし、苦笑しながら語った社長に首を傾げる。


「どうしてですか?」

「……会えばわかりますよ、加地充(かじみつる)に」


会えばわかる……。いったいどんな社長さんなんだろう?

加地製菓って言ったら、チョコレートで有名なお菓子業界の大手企業。

そこのトップなのだから、すごくやり手の男性をイメージしてしまうけど……。




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