王子様はハチミツ色の嘘をつく
後味の悪い会食
出勤した社長室で簡単な掃除を済ませたあと、タクシーで移動した先の『華寿司』。
小ぢんまりとしたお店ながらカウンターの他に個室があって、私はそこで社長の幼なじみである加地製菓社長の充さんと、その秘書である高梨美也(たかなしみや)さんと対面した。
充さんは社長とは違うタイプのイケメンで、可愛らしいと言ったら失礼だけれど、女の子のような甘い顔で、和やかそうな人だ。
美也さんはクールビューティーな印象で、いかにも有能な秘書という感じ。
何か彼女から学べるところはないだろうかと、変に熱い視線を送ってしまう。
四人掛けのテーブル席に向かい合い、簡単な自己紹介を終えた後、充さんがひとり頷きながら、私と社長とを見比べて言った。
「この芹沢さんが、静也の“世界で一番泣かせたい子”かぁ」
……な、なにそれ? 世界で一番泣かせたい子……?
「……充。仕事の話を」
至極面倒臭そうに社長が口を開くと、充さんはつまらなそうに口を尖らせる。
「久々に会ったんだから、ちょっとくらい世間話したって」
「ではきみだけそうしていてください。僕は高梨さんと話します」
社長は冷たい口調で言うなりテーブルの上に書類を出した。そしてちょうど彼の向かい側にいる高梨さんと、本当に仕事モードの会話に突入してしまった。
来年の秋に、ウチの社の蜂蜜を使ったチョコレートを販売してもらうらしく、その予算や方向性について、言葉を交わしている。
私も聞いておいた方がいいんだろうと彼らの会話に耳を傾けていたけれど、その途中でお寿司が運ばれてきて、少し気の緩んだところに、充さんから声を掛けられた。