王子様はハチミツ色の嘘をつく
「芹沢さん、静也に超苛められてるでしょ?」
「え? えっと……」
苛められてるっていうのは言い過ぎかもしれないけど、彼の言動に振り回されているのは確かだからな……。
充さんに曖昧な笑みを見せてから、ちら、と社長の方を窺うと、特にこちらを気に留めている様子はなく、高梨さんとの話を続けている。
「あ、そっか。俺に変なこと言うと、会社に戻った後ひどいお仕置きが待ってるんだ」
おおげさに声を潜めて充さんがささやく。
「べ、別にそう言うわけじゃないですけど」
……たぶんね。
でも、充さんの中の社長のイメージって、なんだかとてつもなく意地悪な人みたい。
幼なじみということは、過去の社長の姿も知っているはずだよね?
私の記憶の中にいる、優しかった彼のこと、充さんは知らないだろうか。
「あの……子供の頃の東郷社長は、どんな人でした?」
「子供の頃? うーん、今とほとんど同じかなぁ。冷たくてさ、子供のクセにあんまり泣きも笑いもしなくて、学校では超嫌われてたよ」
冷たくて、嫌われてた……? おかしいな、私の初恋の王子様とリンクしない。
「年下の子や、泣いてる子に優しかったりは……?」
「え? 静也が? ないない! むしろ泣かせる側だよコイツは」
思いきり手を顔の前で振って、私の疑問を真っ向から否定する充さん。
……どうしてなんだろう。あの日の東郷社長は確かに優しい王子様だったのに。
何より彼自身が、私に会ったこと、それからお菓子のおかげで泣きやんだことまで覚えているのに……。