王子様はハチミツ色の嘘をつく


モヤモヤとしたものを抱えて考え込んでいると、社長と美也さんの話はひと段落したらしく、二人が食事を始める。

それにならうように箸を持った充さんが、隣の美也さんに甘えた声で言った。


「美也ー、玉子ちょうだい」

「……真鯛と交換よ」

「えー? コハダじゃダメ?」

「光物に用はないわ」


……なんだか、ずいぶんとくだけた会話をしているな。ていうか、下の名前で呼んでるし、美也さん社長にタメ口って、どういうこと?

私も食事を開始しつつ、二人のやりとりを興味深く見ていたら、そんな私に気付いた東郷社長が説明してくれた。


「この二人は、僕ときみの関係と同じなんですよ」

「私たちと、同じ……?」

「ええ。高梨さんは仕事上の都合で旧姓を使っていますが、充の秘書であり妻でもあります」

「ええっ……!?」


思わず大きな声を上げてしまった私に、向かい側の夫妻が苦笑する。

そういう関係って本当にあるんだなぁ……。でも、なんだかユルそうな充さんと、キッチリしてそうな美也さんの組み合わせは、確かに合っているような気がする。

納得しながらお寿司を口に入れ咀嚼していると、ふいに美也さんがこんな質問を投げかけてきた。


「芹沢さん……だっけ。東郷社長って充に話を聞いた限り相当なSみたいだけど、大変じゃない? あ、それとも芹沢さんがMなの?」


げほっ!と思いきりむせて、目を白黒させる私。

おしぼりで口元を隠しつつ、上目づかいで社長の反応を窺うと、彼はしれっと言い放つ。


「今はそうでなくても、僕がそうなるように教育しますよ。徹底的に、ね」




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