王子様はハチミツ色の嘘をつく
あまりに恐ろしい発言に、場の空気が一瞬凍りつく。
いま、彼は“教育”という言葉を使ったけど、絶対“調教”のニュアンスだったよ……。
「……充。企業コラボ、絶対に失敗できないね」
「うん。失敗したら、会社潰す勢いで何かしてくるぞコイツ」
こそこそとそんなことを言い合う充さんと美也さん。
私もそっち側の会話に混ぜてください……と泣きたいような気持になりながらもそもそ食べたお寿司は、せっかくの高級店なのに味気なかった。
食事を終え、外に出て店先で別々のタクシーを待っている間、充さんが思い出したように社長に尋ねた。
「……そういえば、お父さんの具合は?」
社長は一瞬彼から目を逸らし、小さく息を吐いてから静かな調子で答える。
「変わりありませんよ。と、いうか、変わるときは終わるときですから」
変わるときは、終わるとき……?
その言葉になんだか不穏なものを感じて、私も美也さんも思わず彼らの方に注目してしまう。
「静也、そんな言い方……」
「だから……時間の許す限り、僕は全力で結果を残したいんです。仕事のことも、プライベートのことも」
充さんの言葉を遮るようにそう語った社長。
彼はどうしてか、“プライベート”という言葉を発したとき、いつにない強い眼差しで私を見つめた。
ドキン、と胸が鳴り、ただ彼を見つめ返していると、充さんたちのタクシーが先に到着して、張りつめていた空気が緩んだ。