王子様はハチミツ色の嘘をつく


「久しぶり~! 会えてよかった~! ちょうど美都にお願いがあったところなの」

「お願い? なに?」


随分いきなりだなと思いながらも、久々の再会がうれしくて、好意的に聞き返す。

積もる話もあるし、仕事が終わったら食事に行こうとか、そういう誘いかな。

呑気にそんなことを考えていたら、華乃はパステルカラーのネイルが綺麗に施された両手を顔の前で合わせて、ぎゅっと目を閉じ懇願した。


「静也さんのこと、私に譲って!」


私の口元は微笑を浮かべたまま固まり、まぶただけがぱちぱちとせわしく動く。

えーと……。華乃は、今なんて……?


「……あの、意味がよくわからないんだけど」


たどたどしい口調で尋ねると、パッと姿勢を元に戻した華乃が流暢に語り出す。


「あ、ごめんね。でも美都も知ってるとおり私と静也さんは許嫁で、そろそろ結婚の準備をしたいからって彼が私を日本に呼んだはずなのに、帰ってみたらびっくりよ。彼ってば急に私の友達である美都と結婚するんだって言って聞かないんだもの!」

「ちょ、ちょっと待って! 許嫁? そんなの、全然知らない……!」


どういうこと? 社長は私を秘書兼妻にしたいと確かに言った。でも、彼は華乃と許嫁の関係……。
つまり、二股……?

混乱して挙動不審になる私をぽかんと見つめていた華乃が、小首を傾げて口にする。


「……美都、忘れちゃったの? 昔のパーティのこと」



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