王子様はハチミツ色の嘘をつく
「パーティ……? 華乃の誕生日会のこと?」
「そうそう! あれは誕生日会でもあり、静也さんと結婚を約束した日でもあったんだよ?」
……そんな。
思わず表情を険しくして記憶をたどるけれど、やっぱりあの日のことをハッキリとは思い出せない。
でも、家柄のことを思えば、私と社長がどうこうなるよりも相手が華乃であるほうがずっと釣り合いが取れていて自然だから、彼女の話には信憑性がある。
それならどうして、社長は華乃という許嫁の存在を私に教えずに、思わせぶりな言動ばかりするの……?
話がかみ合わず、エレベーターの前で華乃とともに立ち尽くしていると、エレベーターから続く長い廊下の途中にある秘書室の扉が開いて、長身の男性が出てきた。
反射的に振り向くと、その人は深見さんで、私と華乃の方をめざして大股で歩いてくる。
「げ。……私、あの人キライ」
華乃は怯えたように身をすくめてそう呟くと、素早くエレベーターのボタンを押して、開いたドアの中に逃げるように飛び込む。
「あ、華乃、待って」
「……ごめん美都、また今度ゆっくり話そう? 連絡するから!」
「ちょっと、華乃……」
「またね!」
引き留める私を無視して、両側から閉まる扉の向こうに消えてしまった華乃。
連絡するって、私の連絡先知らないじゃない……。それに、あまりにも会話が消化不良のままなんですけど……。
「芹沢さん」
そのとき、背後から響いた深見さんの低音に、思わず肩がびくりと震えた。
振り返って彼の顔を見上げると、彼はどうしてか申し訳なさそうな表情だった。