王子様はハチミツ色の嘘をつく
「ちょっと! この資料足りない! 会議まであと20分よ!」
「予約が取れていない? そんな、困ります。今夜大事なお客様との接待で……」
「常務、今どちらに!? 応接室で先ほどからお客様がお待ちです!」
女性ばかり五人ほどが動き回る秘書課のオフィス内。
彼女たちのてきぱきとした動きと堂々とした振る舞い、そして皆一様に美人でスタイルが良いことに圧倒されてぼうっと立っていると、そのうちの一人が私の姿に気づいてつかつかと近づいてきた。
「室長、もしかしてこの子が社長の?」
「ええ。芹沢美都さんです。芹沢さん、こちらは秘書課主任の……」
「藍川涼子(あいかわりょうこ)です。ここでは涼子さんって呼ばれてるから、あなたもそうしてね」
年齢は三十代前半くらいだろうか。長めの前髪をセクシーにかきあげた涼子さんが、親しみのある笑顔を向けてくれる。
「せ、芹沢です。よろしくお願いします!」
かしこまって頭を下げると、上からクスクスと笑い声が降ってくる。
「なーるほど。こんなに擦れてない可愛い子なら、社長のSゴコロが刺激されてもしょうがないか」
「え?」
涼子さんの発言を不思議に思って顔を上げた私。すると、深見さんが眉根を寄せ、涼子さんをたしなめる。
「藍川。芹沢さんに失礼です」
「ふふ。ごめんなさい。でも、私もこういう後輩欲しかったの。今いる秘書課の皆は有能だけど我が強くて扱いづらいから」