王子様はハチミツ色の嘘をつく
言葉でわからないなら
「どうぞ」
中から聞こえてきた社長の返事を聞いて、私は扉の向こうに足を踏み入れた。
「失礼します……」
遠慮がちに言いながらパタンと扉を閉める。
デスクで書き物をしていた社長が立ち上がり、私をソファの方へ促した。
テーブルを挟んで向かい合うと、すらりと長い脚を組んだ社長が切り出す。
「――蜂谷華乃のことですが」
いっそ開き直っているのだろうか。
後ろめたさなんて全く感じさせない、凛とした彼の声が社長室に響く。
「彼女が僕の許嫁であることは間違いありません。……でも、僕は彼女と結婚する気はない」
許嫁なのに、結婚する気はない……?
矛盾をはらんだ彼の発言に、思わず怪訝な顔をしてしまう。
「……ダメですね」
「え……?」
呆れたように言われて、私はきょとんとする。
「ここは、嬉しそうにするか、そうでなくても少しほっとするくらいの表情は見せてくれないと」
……どういう意味?
彼の言葉の真意をはかりかねて、首を傾げる。