王子様はハチミツ色の嘘をつく
しばらく沈黙が流れた後、鈍感な私に痺れを切らしたらしい社長が、おもむろにソファから立ち上がる。
そしてこちら側のソファに移動すると、私のすぐ横に腰を下ろした。
一気に縮んだ距離に思わず心臓が飛び跳ね、ソファの上で逃げ腰になってしまう。
社長はそんな私を逃すまいとするかのように、両手首をつかんでソファの上に押し倒した。
「あ、あの……っ」
急展開についていけない私は、助けを求めるように彼を見上げる。
どうしてこんな状況になってるの……!
華乃が許嫁だということに関して、まだ何ひとつちゃんと理解できいてないのに、こんな展開いや……!
彼の手を振りほどこうともがいてみるけれど、社長は涼しい顔で私を押さえつけたまま、こんなことを言う。
「僕は少なくとも、蜂谷華乃にはこんなことをしませんよ。きみだから、困らせたいんです。……そういう顔が見たいから」
社長は鋭く目を細め、甘い声でささやくように話す。
「そういう、かお……?」
「ええ。顔を真っ赤にして、戸惑っているのに、どこか物欲しげで……僕を煽っているのかと勘違いしそうになります」
しなやかな彼の指先が、私の頬をそっと撫でた。
あ、煽っているだなんて……! そんな高等な技術を私が持ち合わせているわけがないでしょう!
「私は、本気で困ってるんです! ……社長の考えていることが、全然わからないから……」
後半は頼りない口調になりながらそう訴えると、鼻の奥がツンと痛むのを感じた。