王子様はハチミツ色の嘘をつく
なにこれ……もしかして、私、泣きそう?
初恋の相手とはいえ、彼のことはまだ知らないことばかりだし、会話だって、数えるくらいしかしていないはずなのに。
華乃が彼の許嫁だったってことに、自分が思うより傷ついているみたい……。
「もう、いっそのことハッキリ言ってください……華乃が本気で、私は遊びなんでしょう?」
彼に感じていた運命がただの幻想だったとしても、これ以上深入りしなければ、傷は浅い。
突き放されるなら今の内がいいと、私は勇気を出して彼に問いかけた。
知らないうちに瞳の中にはなみなみと涙が揺れていて、それがこぼれないように、きゅっと唇を噛んで答えを待つ。
「……泣き虫ですね、昔から」
それなのに、社長の口から出たのは、そんな呆れたようなひとこと。
彼はいつも私の質問にちゃんと答えてくれない。はぐらかされるこっちの気持ちも考えてよ……。
そう思った時、不本意にもひとしずく、涙が頬を伝った。
……ダメ。また泣き虫って言われる。
悔しくて社長から目を逸らすと、彼がふっと笑いをこぼしたのが聞こえて、そのあとで耳に入った言葉はこうだ。
「だから、余計に苛めたくなるんですよ?」
「な――っ」
なんですかその滅茶苦茶な理屈、と反論するより先に、社長の顔が目の前に迫っていた
彼の纏う甘くて上品な香水の香りが鼻腔をくすぐり、相変わらずきらきらと輝く瞳がきれいで、視線を奪われる。