王子様はハチミツ色の嘘をつく


秘書課や社長室のあるフロアの一階下に、社員食堂がある。

その席数は二百五十席あるにもかかわらず、お昼時はいつも満席。

私と涼子さんが覗いたときもすでにかなり混雑していて、空席を探している人も多いかった。


「……座るの無理そうですね。外、行きます?」

「大丈夫よ。ちょっと待ってて」


諦めムードを漂わせる私に頼もしい笑顔を見せ、食堂内にずんずん入っていく涼子さん。

彼女はあろうことか窓際の一番眺めのよさそうな席に向かうと、そこに座る男性社員数人に席を譲ってくれるよう頼んでいた。

でも、まだあの人たち食べてる途中だし……大丈夫なのかなぁ。

不安げに成り行きを見守っていると、数分でこちらを振り向いた涼子さんが、指でオッケーサインを作った。

ええっ! なんで? 涼子さんが美人だから……とか?

なんにせよ席が確保できたのはありがたい。

私も食堂内に入り、涼子さんの待つ窓際の席を目指した。


「……どうして譲ってもらえたんですか?」


テーブルの上にハンカチを置いて席を確保してから、食券を買いに行く途中で涼子さんに尋ねる。

すると悪戯っぽく笑った彼女は、私にこっそり耳打ちした。


「あの人たち、営業二課の社員なんだけどね。“今度、秘書課メンバーと営業二課で合コンしましょ?”――って持ちかけたら、快く席を譲ってくれたの」

「なるほど。交換条件……ってやつですか。でも、本当に合コンするんですか?」





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